鋭く、けれど静かに




ぴたり、と当てられた冷たい刃に、意識せずとも冷や汗が流れた。
少しでも動けば、肌を切り裂くであろうその刃はぴくりとも動かない。
息もできずにただ立ち尽くしていると、何のつもりだ、という低い声と共に刃が肌から離れていった。
ほ、と短く息を吐き、背後を振り返る。
先ほどまで、自分の前を歩いていたはずの人物がそこにはいた。
何でもなさそうな顔をして、ナイフをくるりと回し、白い上着の中に潜ませた。
彼と出会って数年が経つが、初めて見るナイフだった。
随分使い込まれていたようだが、小柄な彼の手に余る大きさのそれは、どこか違和感を覚えさせた。
「それで、僕に何の用だ」
鋭く詰問するような視線に、堪らなくなって身体を緊張させる。
「用っていうか、アンタが何処行くか気になっただけだよ」
この街は知らないところがまだまだ多すぎるんだ、と言外に含ませ、言い訳をした。
「ちょっと、外の空気を吸ってくるだけだ。さっさと本部に帰れ」
しっし、と手を振られてしまえば、彼の後をついていくという道は絶たれてしまった。
仕方がないので、酒場にでも行こうか、と思い、足を向けた。

(俺は、アンタの横にはいられないんだな)





RETURN