代わりなんて
「レオ、持って行け」
そう言って手渡されたのは、先ほどまで彼の腰にあったナイフだった。
彼が戦闘において近接攻撃に使っていた物で、それはそれは大切そうにしているのを幾度となく見たことがある。
「おい、これって」
「護身用に持ってろ。俺の代わりだと思ってくれてもいい」
長年使われたナイフは、使用者の手になじむように磨れ、程よい温かみと鋭さを持っている。
「大事な物だって言ってただろ!生まれた時に授かったって」
「そうだ。だから、お前に持っててほしいんだ」
訳がわからない。
大事なものなら自分で持っていればいいじゃないか、そんな考えが頭の中を駆け巡る。
お人よしで、馬鹿真面目で、何時も何を考えているかわからない、と常日頃から思っていたが、何時もより更にわからない思考回路だ、と思う。
「騎士団での、お前の役目が終わったら、俺のところに来てほしい」
その台詞に、どきり、と心が跳ねた。
こんなことで嬉しくなるなんて、ダサい、でも、嬉しいのが事実だ。
こくり、と頭を動かすと、その頭の上に、大きくて暖かい手のひらが被さった。
そのまま、髪を梳く様に指が下へ、顔のラインを通り、あごの下で止まる。
指が上へ力を入れれば、顔が自然と上がる。
絡み合う視線が酷くくすぐったく、もどかしい。
恥ずかしくて真っ赤になった顔を見られたくなくて、指から逃れ、そのまま目の前の胸板に顔を寄せた。
ああ、この人は、一生僕のことを放してはくれないのだろうな、とぼんやりと思った。
(僕が行くまで、必ずこの場所で待ってるって、約束しろよ)