音と気持
ぴん、と張られた弦を指先で弾けば、透き通った音が出た。
それを一弦づつ繰り返しては、数弦まとめて弾き、音を確かめる。
くるくる、と手際よく減を巻き、音を気持ちいいほどぴったりにあわせると、最後に、じゃらん、と全ての弦を弾く。
「きれいな音がする」
今までベッドに腰掛け、己に背を向けて弓の手入れをしていた師匠―一度もそう呼んだことはないけれど―が振り向き、言った。
「レオの竪琴はいい音がする。俺も回復できそうだ」
にこり、と笑い、惜しげもなく賞賛を浴びせられ、くすぐったくて、恥ずかしくて、今度は己が背を向けた。
子供じみた反応だ、と自分のことながら思うが、そうでもしなければやっていけない。
「恥ずかしいこと言うなよ、ダサい」
竪琴を抱きかかえて、くるり、と背を向ける。
耳が熱くてたまらない。
背後でフリーが笑いをこらえているのが気配でわかる。
「いいじゃないか。なぁ、レオ。一曲、聞かせてくれないか」
な、と甘えるように此方を見る視線がひしひしと感じられる。
視線の感覚を振り払うように、顔を上げ、首を振る。
彼に背を向けたまま、ぴ、と弦に指を添え、呼吸を整え、心を静める。
さあ、と息を吸い、暗譜した楽譜を思い起こしながら、慣れた動きを指に求める。
頭の中に浮かび上がる楽譜は、極寒の地に古くから伝わる、柔らかな愛の歌のもの。
この想いをのせて、彼の耳に届け、と弦を弾いた。
(レオ、言いたいことははっきり言わなきゃ駄目だぞ)
(ブラッド!?何が言いたいんだよ、アンタ!)