Lover
手を伸ばした先にあった肌は思っていたよりも温かくて、離しがたかった。それほどまでに、自分は人肌が恋しかったのか、と人事のように思う。そんな脳とは裏腹に、体は更なる温もりを求めてもう一方の手を伸ばす。
(あ、起きちまう)
傭兵、という生業で生計を立てている彼のことだから、最初の接触で起きているやも知れない。折角寝た彼を起こしてしまうというのは、如何ともし難い。けれど、人肌が恋しい。
(むかし、さみしいっつって、ハルトマンをこまらせたことがあったっけ)
人間不信になりかけていた自分を育ててくれたハルトマン。最初は警戒してばかりで、まったく懐かない、可愛げのない子供だった自分を育ててくれた人。彼が来て間もない頃、暗い夜が怖く、眠ってしまえば見る夢が怖く、疲れていたであろうハルトマンに何とかして、夜中ずっと傍にいてくれるように泣きついたことがあった。少し困った、でも頼ってもらえることを喜ぶハルトマンの顔を、今でも鮮明に思い出せる。その時から、変わっていない、自分は。
(アンタも、ああいうかお、してくれるかな。おれ、それだけ、あいされてるかな)
彼の目が開く前に、くちづけをひとつ。
ゆっくりとまぶたの下から現われる青空に、あいを。
(まだ、あいってどんなものかはっきりとはわからねぇけど。きっと、これがあいだとおもうから)