消せない痛み
「それでは、各自休息を取るように」
ぱさ、と手にしていた書類を机に置きながら、総士は言った。それは、会議の終了を意味した。あー疲れた、などという他愛もない雑談。軽くため息をつきながら、一騎は仲間たちを見た。
「どうしたの?一騎君」
隣に居た真矢がため息に気付いたようで、心配そうな声をかけてくる。他の仲間たちは、出口へと向かっている。声の方へ顔を向けようとしたとき、視界の端の影がふいに見えなくなった。がたん、と影が引っ掛けた椅子が倒れる音がした。
「!」
少しの距離しかないはずなのに、酷くもどかしい。影の場所まで向かえば、彼は床に膝を付き、身体を震わせている。異常な状態であることは、一目見て分かる。
「総士っ!!!」
自分の出した声の大きさに、冷静な自分が驚く。出て行こうとしていた仲間たちも、先ほどまでは近くに居た真矢も、驚いているのが分かる。
「いや・・・だ。っ、ぼくは・・・、まだ」
搾り出すように総士は呟く。それが、ここに居る人間に向けられた言葉でないことは、確実だった。制服が皺になるほど自分の身体を抱く総士。そうし、と声をかけて、その身体を抱きしめる。周りの目から、彼を隠すように。
「忘れ、な・・・い、から」
は、は、と浅く呼吸をする総士を、一層力を込めて抱く。少しずつ、身体の震えが小さくなり、呼吸も規則正しいものになっていく。大丈夫。そう思った。
「もう、大丈夫か?」
声をかけると、腕の中の頭がかすかに下に動いた。そのまま、身体を預けてくる。信頼、されているのかと思うと、不謹慎ながら嬉しい。しばらく、そのままでじっとしていると、行動を止めていた仲間たちが動くのが分かった。触れないでいてくれる事が、ありがたい。
「部屋、行こうか」